ディナーでの姉妹の議論はすごかった。喧嘩をしているわけではないのだけど、要点整理をしながら激論が始まった。食事の片付けをしている私がいることを二人は全く無視して商売の開始に向けて話している。これって、かなり面白いのだ。起業する女子の激論だけで卒論が書けそうなんだけど。
事業計画を策定するのは楽しい。多分、最初の議論が大事なんだよ。起業する人の大半は、この事業計画が実に適当でやって行く中で問題点がたくさん出てきては沈む。そして、倒産だ。起業して4年以内の倒産は80%超える。だから、姉妹は必死に議論している。この議論は7日間はかかるかな。終わるかな。
香織が言い出したのは、実店舗を設置するのは時期尚早だということだ。そもそも、下着屋を始めるにあたり自社商品を展開する店舗を構えるのは軌道にのってからやるべきだ。それまでは、ネットで販売することに専念した方がいい。実店舗の不動産経費の減価償却費を勘案すると、最初はWebで展開して行くのが妥当だとの意見だ。
それに対して春江は実店舗で小さく初めて、同時にWebでも展開して行くのがいいと言い出した。人件費はアルバイトで十分であって、小規模の販売店だから経費は大してかからないと主張する。
すると香織が人件費と副費を入れると事務作業が煩雑になる。そのためのスタッフを雇ってやるには、人件費の高騰を最初から招くからダメだと主張する。さらに、20、30代の女子は実店舗で買い物をするより通販で買い物をする人の方が多いと言っている。
WordPressでWeb店舗のダミーを作っていた香織は、春江に見せた。MacBook Proに映し出されたWeb店舗は完璧に仕上がっていた。
「すごいじゃない」
「WordPressでもHTML5でもサイトは作ってあるよ。決済システムも入れておいた」
「これをアップすれば終わり」
「もちろん。今はローカルだけど、いつでもあげられるよ」
「実店舗はすぐにはやめた方がいいか」
「茅ヶ崎で店舗を構えるのは反対」
「湘南のブランドにしようかなと思ったのだけど」
「小さく構えるにしても、東京だよ。購買層の人口が違う」
「競争が激しいでしょ」
「どこも競争は激しいよ。後発の下着屋だよ。デザインで勝負しないと勝てない。それから、外国人向けに開発することを考えないとだめ」
「対象の国はどこ」
「ヨーロッパだよ。パッドの入ったブラをしないからね。中国で販売するのが最適だけど、それは後のことだよ」
止まることなく、議論は進む。
なぜか俺が書記役になっていた。
「書記さん まとめておいて」と言って風呂にいく二人。
姉妹二人で風呂の中でも話が始まったから、止めた。
「あの、近所からクレーム来るから早く出て」
布団を出しておいらは寝ようかなと思いきや、バスローブ姿でまた始まる。
どうやら、この姉妹には「ストップ」という言葉がないみたいだ。
起業する時はこれぐらいの勢いが必要なのかな。
おいらは寝ます。今、朝の5時です。
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